対談

元 野村総合研究所(NRI)
常務執行役員 中村昭彦さんに聞く

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弊社発行のタブロイド紙
『Re・Birth!7th ANNIVERSARY Winter2020』
に掲載した記事をご覧いただけます。

古川が前職でお会いした野村総合研究所(以下NRI)の常務執行役員 中村昭彦さん。中村さんは当時「中村塾」を通じて、NRIに “ユーザー目線”を根付かせた方です。塾は「いわしの会」と呼ばれ、その評判は外部の古川にも届いていました。いつか塾を開いてほしい。古川の念願はようやくかないました。2017年、リ・バースで1日だけの中村塾が開催され、参加者からは“考え方が変わった”という声がたくさん寄せられました。この良いお話を、もう一度皆さんに聞いてほしいため、改めておうかがいしました。

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「いわしの会」こと中村塾とは

自分と相手の目線は大きく違う

古川

中村さんと初めてお会いしたとき、同じネクタイだったんですよね。今日、持ってきました。

中村

よく持っていたね。

古川

もう10年以上まえなので、していないんですけど、捨てられなくて。

中村

そう。あのときはさすがにお互い気づいたよね。

古川が中村さんと
初めてお会いしたときのネクタイ。
偶然にもまったく同じネクタイだった。

古川

はい、僕はあのとき初めて神様を信じました。神様っているんだと(笑)。あれ以来、中村さんにはお世話になっています。

中村

いやいや。古川さんが独立されたときは大丈夫かな?と思って、しばらくは夕飯くらいご馳走するからと言ったら、あっという間にご馳走してくれるようになった。

古川

あのときの借りは返しますとか言ってました(笑)。

中村

でもね、仕事を通じて知り合った方と仕事を離れてもお付き合いできるというのは、すごく楽しいし、単純に嬉しい。次の時代を担うみなさんに何らかの貢献ができたらいいなと思って、今日も来ました。

古川

ありがとうございます。では、さっそく。僕は前にお聞きしていますが、中村塾が「いわしの会」と呼ばれる理由から。

中村

そうですね。中村塾では毎回、最初に詩人の金子みすゞさん*の詩『大漁』をみんなで読み上げていたんです。こんな詩です。

金子みすゞ:大正末期に活躍した童謡詩人。詩は小学校の国語の教科書に掲載されている。「こだまでしょうか」の詩は公共広告機構のCMで使用された。

中村

これは人から見れば大漁で大喜びだけど、いわしから見たら仲間が殺されて悲しんでいる。これくらいシステムエンジニアとお客さまの目線は違う、という比喩です。

古川

両方の目線で捉えないといけないということですね。

中村

そうです。僕は顧客の立場もSEの立場も両方経験しています。だから、塾ではお客さまからはこう見えているんだよ、と伝えていました。日常でもメンバーが「最初に了解を得たのに、急に仕様変更が入って、開発期間もコストも見直さないといけない」と言ってくる。僕は「もしかするとお客さまは、あのときの説明じゃわからなかったのかもしれないね。では、どうするのがいちばん良いのだろうね」と返すんです。

古川

それはもうお客さまに聞きに行くしかないですよね。

中村

そのとおりです。お客さまが正しいんです。スタート時点で合意をしたことは事実ですが、その後、お互いに変化が起こる可能性は十分ある。あるいは合意したつもりでも認識が違っていたかもしれない。この前提をまずは認識しないといけないんです。そこから持続的に認識を合わせつづける。変更管理のように可視化していく。昨日と今日の違いなら誤差は小さい。けれど、3か月空いてしまったら誤差は大きい。こういうことを考えて積み重ねていくことで信頼関係はできていくんです。そしてもう一つ大きいのは、縦の関係です。担当者同士だけでなく、課長同士、部長同士、役員同士と複層的につながっていく。持続的かつ複層的に。信頼関係を構築するには、ここまで備えるべきなんですね。

古川

信頼関係の厚みも変わってきますし、問題が起きたときの解決能力が明らかに違いますよね。

中村

はい。組織と組織で信頼関係をつくるんです。「親しくしていた部長が異動してたいへんなんです」とか、ありがちですよね。でも組織で関係ができていれば、そんなに崩れない。その人だけしかつながっていないからそうなる。こうしたリスクを一つ一つ考えていくことが信頼関係をつくる道筋です。中村塾は、こうしたことを考える力や実行する力をつくる場でした。NRIの組織はすべて開発組織ですから、いわゆる営業行為の認知が低いんです。しかし、プロジェクトをスムーズにリリースさせるためには、お客さまに正しく理解していただくための営業行為がいるんです。“良いものをつくっていれば良い”という発想ではなく、信頼関係をつくるためには、お客さまの目線が必要なことを伝えつづけていました。

(つづきます)

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